1998/10/06(火)

中断前の日記(7月最終分)へ


きのう/きょう/あした


東西と南北(2)

昨日、中国語の「西北」と英語の「North-West」の違いに触れたところ、早速、反応を頂戴した。同僚のホームページに興味深いことが述べられている。私も、天子は「南面」する(つまり「北」を背にして座る)からという説にほぼ同意する。そもそも「北」という漢字が「背」を語源としている。「江左」「江右」は従って、それぞれ「東」と「西」になる。氏の言われるように、中国人は「映画館の右」と言ったら映画館に向かって右ではなく、映画館を背にして右という傾向が強いことは、かつてアンケート調査も出ている。もちろん、これも年齢差があるようで、年齢が下がるに連れて、逆の結果が出てくるようだ。また、芝居のシナリオなどで「舞台の右から登場」とか、写真を前にして、「あなたの右にいる人は誰?」「写真左から3番目が誰々」とかいう場合は、少し事情が異なってくるし、文字学でいう「右文説」になると、「向かって右」となる。ただ、「左右」は相対方位だから、ほぼ「坐北朝南」で解決できるのだが、「東西南北」は絶対方位で、必ずしもこれで説明できない場合もある。なお、この件に関しては、私の「アラカルト中国語」(同学社)でも題材として取りあげたことがある。
ところで、氏の言われる「雨が降る」である。中国語では「下雨」と意味上の主述が逆転するのだ。これを氏は「天」が省略されたと考えられる。この考え方は実は古くからある。昔、大学時代に高橋君平先生の集中講義をたったの1人で2年連続して受講したことがあるが、その時にも先生は「天、雨降らす」の「天」が省略されているのだと説明された。しかし、「雪が降る」とか「風が吹く」とかいった、いわゆる「現象文」は、これで説明がつくのだが、たとえば、「雨が止む」とか「風が止む」の場合はどうなるのだろう。これは、中国語でも「雨住了」「風停了」のように本来の語順に戻るから厄介だ。また、主述が逆転するのは、「存在」や「出現」を表す文でも見られる。「來了一個人」とか「那里有病院」というやつである。日本語に入った「漢語」にも「漏電」「落石」「有名」「無実」とか沢山ある。「隕石」も同じである。「隕石」は日本語ではすでに複合語として1つの名詞になっているが、本来は、「石、隕(=落)つ」という構造である。もちろん、これは「天、石を隕す」と読めなくもない。しかし、これも「漢語指南」で触れたが、「春秋」の「公羊伝」でも取りあげられた古くて新しい問題なのだ。「公羊伝」ではこれを、(私の言葉で言えば)事象を聞いたり見たりしたままに描写したものだと説明する。「ドーンと音がした。何かが落ちた。見ると石だ。5つある」というように。つまり、「理性的」な文ではなくて、「直感直叙」の文だと言うのである。今の文法ではこの形式を「存現文」と呼ぶが、私は「存現文」の本質は、まさにこの「直感直叙」にあると考えている。いわゆる、主述構造の文は、主語と述語の間に分断がある。あくまでも、述語は主語に対する説明(陳述)であるのに対して、「存現文」は、その文を発話することが一つの話題の提供、あるいは文全体が「新しい情報」と言っても良いだろう。まさに、藤堂先生の言われる「発見のムード」「起こる構造」である。だからこそ、意味上の主語(動詞の後ろに来る名詞)は、「不定」になる。問題は「何が、どうする」ではなくて、「何かが起こった」にあると私は考えている。
何はともあれ「中国語の中には過去の王朝政治の長い歴史とその哲学がインテグレイトされていて、現在もなお人々の言語生活の骨組みを担っているのである。中国と中国語を論ずる場合、このことを忘れてはいけない」という氏の言葉には私も全く同感である。このような基本的な態度が、現在の中国語学研究に欠けていることは確かかも知れない。

【午前】【午後】

午前中は久しぶりにAndover Libへ行き、以前借り出したことがある「廣學會」の資料を探す。しかし、見当たらない。係りの人に聞くが、貸し出し中でもないようで、まだ書庫に戻してないようである。見つかり次第、電子メールで知らせてくれるとのこと。
昼食後は、Widener Libと燕京図書館へ。Andoverになかったのが、Widenerにあったので早速借り出す。ついでに、Medhurstの「GOD」の訳語に関する本も見る。ここに実は「北帝」が出てくる。(「北帝」は「意拾喩言」で使われている言葉)燕京では地理学関係のこれまで知らなかった本を見る。あと、興味深い本が幾つかあった。
4時過ぎ帰宅。

【夜】

メールチェック。他。

【今日の食事】

朝食:トースト、コーヒ
晝食:チキン照り燒き丼、リンゴ、
夕食:ステーキ、ポテト、サラダ、コーヒ
今日の夕食は、台湾の学生達は外食のためバーバラさんと2人。折角のステーキなのに、かわいそう。


3/28-5/31にしたこと

  • 「イソップ中國語飜譯小史」(仮題)初稿(約32,000字)

6/1-7/10

  • 「イソップ中国語訳の系譜」(約40,000字)

今日コピーしたもの(マイクロを含む)

  • 「海國輿地釋名」(光緒27年)の巻首部分。・・・この本の引用書目はすごい。ほとんどの地理学書を網羅している。

パソコン關係

  • 特になし。

【アメリカでの連絡先】

Keiichi Uhcida
C/O Mrs.Barbara Marchese
27Daniels St,Arlington,MA 02174,USA

or

Keiichi Uchida
Department of Asian Languages and Civilizations
2 Divinity Avenue,Cambridge,MA 02138,USA


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