「花降り」
2007/05/24(木)
22日から東京に出張中だが、大阪で買ってきたこの本をさきほどホテルで読了。
歌人、道浦母都子の初めての小説である。
「歌物語」とも言うべきもので、毎章の始めに珠玉の短歌をちりばめている。そして、やはり、作者自身の2つの歌は圧巻である。
洗い髪濡れて光れるそのままをあなたに倒れてゆくまでの愛
ただ一度この世を生きて自らのいのちと思う一人に会いぬ
桜の名所も沢山。彼女は本当に桜が好きなのだと思う。
今の時代には不釣り合いな「純愛」小説だ。しかも、道浦さん自身を彷彿とさせる「少女のような純粋な愛」「ひたむきさ」が心を打つ。
いわゆる恋愛小説には必ず出てくると思われる性描写も皆無な、プラトニックの世界である。
この本を読みながら、思い出していたのが、柴田翔の「されどわれらが日々」であった。
邦彦への手紙は、「されど・・」の別れの手紙を読んでいるような錯覚に見舞われる。
やはり、あの時代の人なのだ。
「ひたむき」で「純粋で」「不器用」そういう言葉がぴったりする。
ただ、素人が言うのもなんだが、道浦さんのこの小説は、実は成功作ではないように思われる。
1つは、「繰り返し」、2つは、次を読み進めさせるための作為的と思われる会話の核心の次章送り、作者の「意図」が感じられて「自然」な流れの中で読んでいけないのだ。そして、最も気になるのが、死産の兄の名と思う人の偶然の一致である。これが「必然」「作為」を読者にはっきりと示してしまっている点である。おそらく、これらが、この小説の「未熟さ」を見せてしまっているように思われるのだ。
それでも、読み終えた後、どこか心地よさが残る小説である。おすすめ。