「恋をしただけじゃない」

きのう/きょう/あした


2004/05/12(火)

先日見たドラマ「赤い月」の中で、最も印象的だったのが、波子のこの言葉だった。
夫が亡くなってわずか2ヶ月後に、夫から「俺が死んだ後、氷室さんと結ばれることだけはやめてくれ」と言われていた波子が、結局は氷室と結ばれたことを非難する2人の子供に対して発せられた言葉である。
ところが、原作を見ても、この台詞は見つからない。
しかし、たとえ原作になくても原作の「本来の面目」を示す言葉として、この表現は存在しているように僕には思えた。
原作にはないこの言葉を波子に言わせた脚本家の竹山洋は見事と言わざるを得ない。
それは、一般的な「読み」としては、以下のような図式がこの原作の主題であると見なされるのに対して、ある意味では原作を超えたものかも知れない。

お前たち(子供)=私自身=母
母は自分自身(=子供たち)の命のために生きなければならぬ
生きるためには愛しあう人が必要=人間とは愛なしでは生きられるもの
愛あってこその命=命あってこその母
だから氷室と結ばれた

これを脚本家は「恋をしただけじゃない」と一言で「片づけた」のである。
全く自己中心的な愛ではあるが、愛とは本来そのようなものかも知れない。
それを波子に語らせたところにこのドラマが成功している最大の要因であるように僕には思えるのである。
2004-0512