[『中国図書』第14巻第3号(2002.3) 2001年読者アンケート ]   内田慶市著『近代における東西言語文化接触の研究』関西大学出版部

日下 恒夫(関西大学)

 この二、三十年の間に歴史、文学、思想、言語と、各研究領域の壁は高くなるばかり。ところがそんな壁を乗り越えた学際的な「西学東漸」研究の新しい波が、内田氏とその周辺に巻き起こっている。これはその象徴的な書物である。この人は文体が明朗。深刻ぶった虚しい言辞を好まない。まず実物を手にしたうえで論を展開するのは、氏が歩いた後に上海の古本屋からいい本が消えてしまうという伝説の持ち主たる面目躍如。イソップの東漸を話題に試みられた、言語すなわち文化の翻訳に関する章を一読、氏の方向と方法が伝わる。若い人が読めば研究に興味が湧き元気が出ること請け合い。ただし要望一つ。早く正誤表を読者の手元に届けてほしい。